(1) 歴史文学の推奨
とりあえず……。
(1) 辻邦生 「安土往還記」
(2) 今東光 「お吟さま」
(3) 井上靖 「信松尼記」
(1)について。
極めて古典的な記述を重視する辻邦生さんは、「語りべ」を設定
します。この「語りべ・物語の話者」だけが架空の人物です。
織田信長の生涯を、一人のイエズス会修道士(架空人物)の
視点を通して描いています。当然、著者自身の視点と言えるでしょう。
戦国時代を扱った多くの小説、たとえば、山岡荘八、司馬遼太郎たち
の作品は、彼らの歴史解釈において、真実性が失われます。つまり、
歴史解釈と言うよりは、彼らの「小説造り」の興味、といったものが、
作品を覆っているからです。
辻さんの作品は、既存の「織田信長人物像」にはない真実が、
よく顕れています。
(2)について。
この作者は、平泉の、ある仏寺の住職だったそうです。この作品で
直木賞を授賞されたそうです。直木賞授賞作家としては、それなり
の年配だったと思われます。
やはり、戦国時代を背景にしていますが、戦国武将の一人を脇役
とし、彼を慕う女性を主人公(ヒロイン)としています。
利休十哲の一人、織田信長からもこよなく信頼された高山右
近という、また、キリシタンとしても名高い人物像が、よく描かれ
ています。
安土桃山時代の後半を時代背景としています。すべて歴史上
の人物ですが、この小説を彩る「愛の物語」が歴史的事実であ
るかどうかは、わかりません。しかし、時代感覚と共に、特異な生
を通して、読者の心に染み入る真実を、確かめることが出来るで
しょう。
(3)について。
この作者は、多くの長編を執筆されていますが、ここに挙げた
一人の女性の物語は、20ページそこそこの短編です。
甲斐の武田信玄が、織田信長と盟約を結んだ短い時期
がありました。武田家の「松姫」と、織田家の長男「奇妙丸・
信忠」の間に縁組が整いました。だが、戦国時代にはよくある
例に漏れず、二人の年令は、7才と11才でした。
そして、二人は、一度も顔を合わせることがなく、戦国史
という大きな奔流に呑み込まれていきます。とはいえ、歴史の
皮肉とも言うべき事実、武田家滅亡への攻防を担った、織田
家の指揮官は、松姫の婚約者・織田信忠だった。
出家して、信松尼と呼ばれた、この女性の、硬質で主知的
な文体が、日記という表情を以って、語られていきます。と同時
に、「井上靖の世界」とも言うべき、落日のロマンも、また、旋律
として奏でられています。
- 回答日時:2011/8/4 00:55:46
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